2021年に誕生した百合音声作品ブランド・SukeraSono。
今まで同ブランド作品のシナリオは淡乃晶氏、詠野万知子氏が担当してきた。ブランド立ち上げから3年経過した今、このシナリオライター陣のなかに真鶴コウ氏が加わった。
そして、真鶴コウ氏がSukeraSonoで初めてシナリオを手掛けた作品が、この度リリースされた『【百合体験】超シスコンおねえちゃんのベタ甘✨夜のルーティーン』だ。
本作は姉妹の夜のルーティーンをテーマに、妹命のおねえちゃんが妹に構いまくる様子を描いている。テンション高めな日常百合シチュエーション作品だ。
この記事では、プロデューサーの古賀秀一氏、本作のシナリオを手掛けた真鶴コウ氏にインタビューを実施、作品誕生のきっかけやこだわりなど、本作をさまざまな視点から語って頂いた。
百合ゲームブランド・SukeraSparo、SukeraSomero、百合音声作品ブランド・SukeraSono プロデューサー。
百合愛好家・声優・文筆家。
声優として数々の百合作品に参加。2020年自らの百合創作サークルまなづる屋を発足。「百合」をライフワークに、精力的に作品制作に取り組む。
SukeraSonoに寄せて行くといくのはあえてしなかったです
――真鶴さんはこれまでご自身のサークル(まなづる屋℃-use)やkatalilioでシナリオを執筆されてきました。今回SukeraSonoでシナリオを書くことになったきっかけを教えてください。
真鶴コウ氏(以下、真鶴):書きたい書きたい書きたいと、古賀さんにずっと頼み込んでいました。
古賀秀一氏(以下、古賀):『リップ・トリップ~編集長(ボス)はわたしの解熱剤~』(編注・SukeraSomeroが2024年2月にリリースした百合ゲーム)の広報をお手伝いをしてもらうための打ち合わせの席で、音声作品の話をしました。以前から作品を作りたいという話は聞いていたので、ちょうどいい機会だなと。
真鶴:覚えててくださったんですね!
古賀:言われたことは忘れないので(笑)。SukeraSonoも形を変えて、いろいろ進化していきたいなと思っていたところだったので、真鶴さんとみやぢさんにお願いすることになりました。
真鶴:SukeraSonoがバージョンアップしたいなと思ったときに、思い出して頂けたのは本当にうれしいですね。
――本作の企画は真鶴さんから提案したのでしょうか?
真鶴:みやぢさんが声を当ててくれるならこれ、という企画を何本か出して、そのなかから採用して頂きました。
古賀:僕もさむさん(SukeraSonoディレクター)もこの作品が1番ピンときましたね。みやぢさんを起用する前提だったので、耳かきであるとか、そういうパートがあったほうがいいんじゃないかと思いました。
――本作のシナリオを書くにあたって、SukeraSonoのテイストに寄せようと思いましたか?それともご自身が今までまなづる屋℃-useなどでリリースしてきた作品と同じテイストを意識されたのでしょうか?
真鶴:今までのSukeraSonoとはちょっと違うものが作りたいと古賀さんから聞いていたので、うちらしいものを作って出してしまいました。
――すごく真鶴さんらしい作品だなと思いました。
真鶴:どこまで受け入れてもらえるのかなと思いつつ……。でも、振り切らないとここまでは大丈夫っていうのも分からないので、古賀さんとさむさんを信じて、1回好きに書かせて頂きました。その後にゆっくりSukeraSono色にして頂いたというか。逆にSukeraSonoに寄せて行くことはあえてしなかったです。
好きなものに邁進する女の子ほどかわいいものはないなと思って、その子たちをそのままヒロインにしちゃったという感じです
――ここからは作品の内容についてお伺いしていきます。本作のヒロインであるつばさおねえちゃんは妹のことがとにかく好きですよね。このおねえちゃん像はどのように作り込んでいったのですか?
真鶴:今、私がものすごく好きな女の子像が「推し活」をしている女の子たちで、その生き様みたいなものにハマっているんです。それで、本当に好きなものに邁進する女の子ほどかわいいものはないなと思って、その子たちをそのままヒロインにしちゃったという感じです。思いっきり私の趣味に走っているヒロインです。
初稿ではもう本当に妹命というか、妹を崇拝して行きているというかそんな感じでした。でも、ちょっと卑屈なところがあって、さむさんからのアドバイスを受けて、ちょっと直しました。
古賀:塩梅というか、表現の仕方ですよね。推し活だけじゃなく、おねえちゃんのほうにもチューニングしていったみたいな。
ーー作中ではおねえちゃんが妹をかまうシーンが多いですが、下手するとちょっと面倒だなと感じることもあるんじゃないかと思うんです。嫌なベタベタ感がないのは、みやぢさんのボイスの力も大きいですよね。
真鶴:みやぢさんの演技力、キャラクター、持ち味で、もう俳優としての力だと思います。
ーー大人っぽくて落ち着いた声で、作品との相性がいいですよね。
真鶴:みやぢさんの最初の音声は私の感性に近かったんです。私が演じるならこういう演技をするだろうなと思いました。それを受けてさむさんがディレクションされたときに、これはもう本当に姉妹の日常だからとキャラ感みたいなものを全部削ぎ落とした演出をしてくれたんです。
ーーいつもやってることだからみたいな空気感、テンションのバランスが絶妙ですね。
真鶴:絶妙です。これはもうみやぢさんの力とさむさんの演出力だなと思います。
古賀:この場にさむさんがいないので、あれなんですけど……。音声作品として、力を入れて聴いて疲れちゃうよりは、何度も繰り返し聴ける作品を目指しているので、その調整かなというのはありますね。
ーー妹とディナーデートの約束をするシーンで、おねえちゃんが妹のワンピースの柄と自分のネイルを合わせようとしますよね。おそろいのアイテムでなく、ネイルにしたのはなぜですか?
真鶴:推し活女子のたしなみと言いますか、推しのライブとかイベントがあるときは自分の推しに合わせたネイルにして行くんです。なので、今回は推し活としてネイルを合わせたいっていう乙女心ですね。
つばさおねえちゃんの妙なこだわりというか変わった愛し方というか、そういうのが感じてもらえたらいいなと思ってました。
ーーおねえちゃんの言葉遣いがかわいくて、「かわちい」だけじゃなく、(お腹が)「ペコちゃん」とか語尾の「だお」になったりするのが気になります。
真鶴:ちょっとおちょけた(ふざけた)おねえちゃんを表現したかったんです。電子レンジを使うことを「チンするね」って言ったり。おばあちゃんとかお母さんの言葉がうつった感じがツボで、かわいいって思うんですよね。
「おなかがペコちゃんだよね」ってたぶん小さいころから言われてたんでしょうね。それを真似して妹にも言ってるんだろうなと、ペコちゃんはそういう意図で書いてます。
ーー「飲んでくるならほどほどにしておいてね」とか「目覚ましだけで1人で起きられるようにならないといけないんだからね」みたいな部分とか、おねえちゃんにはちょっとお母さんっぽい要素もありますよね。
真鶴:つばさおねえちゃんはママ代わりって設定なんです。妹が自分から離れて行く日が来ることは覚悟しているんですけど、まだ妹離れできていないというか。
自分に言い聞かせてるんじゃないかな。この暮らしが終わることが分かっているから毎日大事に過ごしたいっていうおねえちゃんの生き様を垣間見て頂けたらなと思います。
小さな1つ1つを積み重ねて生きてる2人って話にしたかったんです
ーー「おかえりなさい」の1回も大切にしてますよね。
真鶴:本当に瞬間瞬間が勝負なんです。でも、終わりが来るって分かって毎日過ごしてると、ちょっとだけハッピーに暮らせますよね。
ーー妹を寝かしつけるシーンで、おねえちゃんは「今日も大好き”だった”よ」と言っていますが、大好き”だよ”じゃないのも気になりました。
真鶴:これも毎日別れの日を覚悟して暮らしているからですね。今日もしっかり大好きだし、しっかり愛せたし、無事に過ごせたしってことで、大好きだったって1日を終えるんだと思うんです。大満足ですって気持ちで。
この作品を小さな1つ1つを積み重ねて生きてる2人の話にしたかったんです。だから選ぶものにもすごくこだわりがあって、自分たちが1番と思うものを調べて、選んでる。
オタ女子たちってアンテナがめっちゃ感度高いんですよ。よくこのカフェ見つけてくるなとか、本当に自分たちの好きなものを見つける感度がすごい。
ーー常にアンテナを張ってますよね。
古賀:オタ活女子のSNSをチェックしてたりするんですか?
真鶴:めちゃくちゃしてます!実際にオタ活してる女の子たちのVlogを見ながら作業することもあります。本当にみんなキラキラしてて、かわいいんですよね。
もう息を吸うように情報収集していくんですよ。好きなことに向かっていく力ってすごいなって思って、それをつばさおねえちゃんに入れたつもりです。
古賀:恋する女の子とはまた違うというか。
真鶴:そうですね。自分のためでもあるんですけど、自分の推しのためにという感じ。キラキラとか瑞々しいとか、そういう感じがいいなって思ったんです。
今なら『推しラブ』(編注:SukeraSomeroの百合ゲーム『推しのラブより恋のラブ』)をもっと別の角度からプレイできる!志乃ちゃんとかめっちゃたまらないです!推しラブの何年後かに推し活女子のかわいらしさに気づきました。
ーー作中に登場するご飯がおいしそうだなと思って、ド定番でもないし、知らないものでもない絶妙な解像度だなと感じました。鮭のホイル焼きとかホタテのおかゆとか事前にこれを出そうって決めていたんですか?
真鶴:全然決めてなくて、つばさおねえちゃんはこういうもの食べそうって、そのときに降ってきたものを書きました。
ーー”大家さんからもらったイチゴ”のように食べ物からキャラクターの生活環境が見えてくる部分もあると思うのですが、作品の背景を感じさせるパーツとして書いている部分もあるでしょうか?
真鶴:そこまで深く考えているわけではないです。ただ、イチゴの件は大家さんにかわいがってもらえるようなご近所付き合いをしているおねえちゃんなんだよっていうのが伝わってきたらいいなと思ってます。
ーー別の食べ物の話だと、朝食の選択肢として出てくるホタテの缶詰(おかゆの具材)ってちょっと高いですよね。これは奮発して買ったのかな?それとももらいものかな?と深読みしたくなります。
真鶴:食べ物に妥協しない、妹にはいいものを食べさせたいじゃないですけど、朝だから妹の胃に負担がかからないようにとか、栄養があって太らないものとか、おねえちゃんは考えて用意してるんだろうなって思ってます。
ーーたまごがゆじゃなくて、ホタテのおかゆってところがありがちじゃなくて。
真鶴:たまごがゆは風邪のときにたぶん出てくる!(笑)
心を愛で満たしてもらえるような作品になっていると思います
ーー音の部分についても伺いたいと思います。湯船から出るときの水音とか、シャンプーをプッシュする音とか、細かく作られた音を聞いてみてどう思いましたか?
真鶴:ありがたかったです。ピッタリ合ってましたよね。
古賀:今回編集をして頂いてるのがMelty Beansさんなんですけど、演出以外の部分でも必要だと感じたものは追加してもらったりしてます。音作りに情熱を持っている人に関わってもらっているなと思いますね。
ーー缶乃さんのイラストを見たときはどう感じましたか?
真鶴:実はこんな感じで書いてくださいって細かくリクエストしたんです。その後によく考えたら缶乃さんにお任せしたほうがよかったんじゃないかとも思ったんですけど、私のリクエストが全部つまっているイラストが届いて。もう妹ちゃん天使ー!って本当に悶絶しながら拝見しました。
こういう音声作品ってヒロインがかわいいじゃないですか。なのにおねえちゃんよりも妹のほうがキラキラしているという。
販売ページを見てもらうと分かるんですけど、妹ちゃんにはハートがめっちゃ散りばめられていて、おねえちゃんはヒロインって書かれているだけなんです。おねえちゃんにもハートを付けてあげてくださいって言ったら、デザイナーさんが、かわいくて天使なのは妹ちゃんなんでっておっしゃってて(笑)。書いた側としては、みんながおねえちゃん目線で妹をかわいがってくれてるっていうのが、うれしいです。
――最後に作品のおすすめポイントと、読者へのメッセージをお願いします。
真鶴:おすすめポイントはありあまる母性を浴びて頂けるところです。大人になった人たちが実家にいたころのお母さんとのやり取りを思い出して、ほっこりして頂けたらなと。守られるとか心配されるとかそういうものをいっぱい浴びたいって人に、心を愛で満たしてもらえるような作品になっていると思います。
どこか日本の片隅でいちゃいちゃ暮らしている姉妹がいるんだって思って頂けたら、ちょっとは元気が出るんじゃないかと!
――ありがとうございました!