『【百合怪談】高千穂アキラのレンアイ怪談』はSukeraSonoが2024年9月にリリースした百合音声作品だ。
高千穂秋良は恋人である神倉ゆめ(聞き手)との関係を進展させたいと思っていた。趣味である怪談を披露すれば、抱きついてくれるのでは?と、かわいげのある思惑から怪談を語り始めるのだが――。
本作のシナリオを担当したのは志水はつみ氏。本格派の怪談と百合の甘い部分が組み合わさった百合怪談は志水氏の真骨頂だ。身近な人に怪談を話す距離感を再現した作りになっており、怪談師が語る怪談と一線を画す作風から、新たな怪談の形が見えてきた。
この記事では『【百合怪談】高千穂アキラのレンアイ怪談』のレビューをお届けする。
本記事はSukeraSonoから商品を提供いただき、作成しています。
トラックリスト
1.EP01:放課後の怪談 (21:40)
ユメは旧校舎の噂って知ってる?理科準備室にある黒電話には――。
2.EP02:心を込めて火をつけて (11:21)
トランシーバーさんの噂を聞いて、一度会ってみたいと思っていたら、今日みたいな雨の日に――。
3.EP03:いつもと違う場所だから (17:51)
林間学習で泊まったいわくつきの部屋。眠りに入ると不思議な夢を見たんだ。
4.EP04:流れ星、見えた? (7:21)
こうして抱き合って眠るのはひさしぶりだよ。
5.EP00:お風呂場怪談 (10:57)
叔父さんの家へ遊びに行ったとき、お風呂で気味の悪い体験をしたんだ。
6.特典トラック:寝息(右側) (29:52)
7.特典トラック:寝息(左側) (29:52)
8.特典トラック:寝息(正面) (29:52)
レビュー
すぐそばにいるユメに語りかける「本格派怪談」
怪談&音声と聞くと怪談師の怪談ライブを思い浮かべるが、本作は身近な人への語りにフォーカスを当てており、語り口はまったくの別物だ。子どものころ、友人同士で怖い話を語り合ったときのような雰囲気のなかに、ふたりの親密さを感じさせるテキストが挟み込まれ、本作ならではの「百合怪談」を形作っている。
「EP04:流れ星、見えた?」を除いて、怪談はどれも本格的だ。秋良は淡々とした語り口で怪談を聞かせ、大きな声や音で驚かせてくることはない。不穏な気配が増幅していく序盤からクライマックスに至るまで徐々に引き込まれていく展開で、怪談本来の怖さが味わえる。



「EP01:放課後の怪談」終盤の展開には鳥肌が立った!
本作の怪談はシナリオを担当した志水氏が体験したことや友人の体験がベースになっており、実話怪談に近しい。実話怪談のなかには、話が唐突に終わるものもある。それが実話怪談の味でもあるのだが、読後にモヤモヤした気持ちになるものもある。
しかし、本作の怪談にはすべてオチがついており、展開も分かりやすい。日ごろ実話怪談に触れていない聞き手も気軽に楽しめる作りだ。
ふたりの距離は怪談を語ることで縮まっていく
本作は怪談だけの作品ではない。百合の部分もしっかりと楽しめる。
秋良はユメを怖がらせれば抱きついてもらえるかも?という動機から怪談を披露する。EP01から03までは怪談がメインで、ユメが抱きついてくるシーンなどもあるが、百合はサブ的な要素となっている。
しかし、EP04「流れ星、見えた?」では一気に百合の濃度が高まる。
秋良の家にお泊まりしているふたりは寝る時間を迎える。これまでに披露された怪談ですっかり心細くなりユメに抱きしめられ、秋良は胸にぬくもりを、同じシャンプーの香りを感じる。
このトラックで披露される怪談は今までのテイストとは異なり、心温まるものだ。最後の怪談を語り終わった後、ふたりの距離は以前よりも近づいている。
ユメにとって、自分が恐怖を感じたとき、おだやかに語りかけてくれる秋良は頼もしく、彼女がいることで心が落ち着ける。最後には秋良が怪談を聞かせた理由を白状するが、そんなお茶目なところもギャップがあって好きなんだろうなと思える。秋良の素直な気持ちが伝わったことで、ふたりはこれからもっと愛を深めていくんだろうなと感じた。



素直に喜ぶ秋良、かわいい!
怪談を引き立たせる音
本作を聴いて一番驚いたのは、音数の少なさだ。
聴き手に恐怖を感じさせるなら、驚かせるような音を入れたり、語りを補完するSEを入れるのが手軽で、効果的だろう。本作ではそういった音の使い方はせず、怪談を聞かせることにこだわっている。
トラックまるまる試聴できるEP00「お風呂場怪談」が分かりやすい。お風呂は音声作品の舞台として定番とも言える。湯船の水音やシャワー音、リバーブのかかった声など、音を使った演出がしやすい。
しかし、本作ではお風呂特有の音がほとんど使われない。目の前で起こっていることではないからだ。話し手が「自分の体験を語っている」ときに突然SEが鳴り響くだろうか?話し手と聞き手の間にはその場の環境音と語り以外には何も存在しないのだ。
本作が重視しているのは、秋良の口から語られる怪談を聴くことであり、再現ドラマを聴かせることではない。シチュエーションを丁寧に作り上げることで「怪談を聴く」ことが楽しめる作品となっていた。
総合評価
『【百合怪談】高千穂アキラのレンアイ怪談』は怪談をきっかけに恋人との距離を縮める百合音声作品だ。
大きな声や音を使って驚かせるのではなく、怪談本来の怖さを追求した作りはホラー作品として十分満足できる。さらっとした筆致と「怪談を聴かせる」ことにこだわった音作りによって、身近な人が怪談を語るシチュエーションを丁寧に再現している。
百合要素は少し控えめだが、トラックを追うごとにふたりの距離は近づいており、終盤にかけてお互いを思う気持ちが感じられる部分もあり、「百合怪談」としての仕上がりも良い。
怪談に興味のある人や、ホラー好きで百合好きの人にはぜひ聴いてほしい作品だ。
夢百合系
学校・学園
ホラー
『【百合怪談】高千穂アキラのレンアイ怪談』


- 発売日:2024年9月13日
- 価格:1,760円
- サークル:SukeraSono
- シナリオ:志水はつみ
- イラスト:織日ちひろ
- 声優:土屋李央
- 年齢指定:全年齢
- 収録時間:約1時間9分 ※特典トラックを含まず
※2024年10月13日時点